【件名:ゴール裏にいます】

正午ちょっと前に会社に戻った。

買ってきた弁当の袋を那比嘉さんに渡し、集金して貰った代金を受け取る。

那比嘉さんの意味深な視線を感じたが、僕にはそれに取り合う余裕は無かった。

重役室の扉をノックし、町造部長にA社での成り行きを説明する。

人員の確保は問題無いだろう。
現に採用待ちの人材も何名かいる。
後は支社長に報告するだけだ。

町造部長の見解はこうだった。

「支社長、今日中に捕まりますかね?」

「さあて、どうかな?あの人も色々と忙しい人だからねぇ。そう言えば先週の土曜はゴルフだって言ってたよ。嫌な接待だって嘆いてたなぁ」

町造部長のこの話を聞いて僕にはピンとくるものがあった。

土曜に篠原さんと滝課長に面会に行った時の課長の格好。
今日の課長との会話。

(そうか!支社長の接待ゴルフの相手は滝課長だったんだ!ゴルフ場で今回の話が進められたんだ!)

何と無く分かってきた。

(急に篠原さんとよう子が退職届けを提出した理由は支社長と滝課長の差し金だったのか!)

(だとすれば二人に連絡して退職届けを回収した者がいるはずだ。一体誰なんだ?)

僕は考えを張り巡らしたが、誰なのか答えは出てこなかった。

町造部長に「失礼します」と言って重役室から出た。
自分のデスクに着き僕は考えていた。
20名程のスタッフの半分は昼食を取りに出掛けている。
残ったスタッフは僕の買ってきた弁当か手弁当を食べていた。

デスクに置いた携帯のバイブが「ブーン・・ブーン・・」とけたたましく音をたてる。

メールは沙希ちゃんからだった。

(そう言えばお昼休みにメールするって言ってたなぁ)

僕は折りたたみの携帯電話を開きメールを確認した。


【件名:寂しいよ・・】
さっきは逢えて嬉しかった・・
でもいなくなってから凄く寂しいです。
また現れてくれるんじゃないかとソワソワしてます。
あたし勇次君無しじゃ生きてゆけないかも・・
なーんて。
冗談だから、お仕事頑張ってね。



(なんじゃそりゃ?少し胸がキュンとしてしまった・・)

返信しようとした時に那比嘉さんがお茶をデスクまで運んで来てくれた。

「メール、彼女からですか?」

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