【件名:ゴール裏にいます】
【件名:大丈夫?】
「あ・・いや、うん・・」
「いるんですね、そんな人・・」(さっきの件よろしくお願いしますね)
那比嘉さんはそれだけ言って自分のデスクへと戻って行った。
(さっきの件って相談したいとかなんとかって話かな?)
僕は那比嘉さんの煎れてくれたお茶を一口啜った。
「アッチッ!!」
お茶は煮えたぎっていた。
那比嘉さんは顔色も変えずにお弁当を食べていた。
午後の予定はもう一つの担当であるB社での打ち合わせだった。
B社は近々ラインを増設する予定で大幅な増員を見込める事が出来る有望な会社だった。
人事担当の方もとても人柄が良く、どこかのハゲとは大きな違いだ。
良い企業もあれば悪い企業もある。
この時の僕にはまだ判断は難しく思えてた。
B社との打ち合わせを終え、帰社したのが定時の1時間前だった。
報告書を書き上げ、上司に提出したのが定時の直前だった。
この会社はほとんどと言って良い程残業は無い。
余程のトラブルさえなければ必ず定時に退社できた。
今日も定時の18:00には退社出来る筈だった。
その18:00の1分前に携帯が鳴った。
嫌な予感がした。
着信した相手の名前を見ると、篠原さんからだった。
僕は一瞬出るのを躊躇ったが、いくら退職したと言えども一度は担当した人だっただけに電話に出る事は義務のように思え、携帯を開いた。
それに篠原さんには聞きたい事があった。
「はい、勇次です」
「勇次くん?篠原です。」
僕は電話の相手が篠原さんだと他のスタッフに悟られないように注意して会話した。
篠原さんの話では、今、よう子と一緒にいて、どうしても会って話がしたい事がある。
ついては、南大分まで出て来れるか。
と言う内容だった。
そしてその場所は『カラオケボックス』だと言う。
(何でカラオケ?)
僕は嫌な予感が的中したのを感じていた。
多分二人は僕の退職時間を待って落ち合う約束をしたのだろう。
しかも自分達は酒を飲むのを目的で家に近い南大分のカラオケ店を選んだのではないだろうか。
僕は一度アパートに戻りステーションワゴンで向かう事を約束した。
二人に吊られて酒を飲む気分にはなれなかった。