【件名:ゴール裏にいます】
南大分のカラオケ店に着いたのは19:30を回っていた。
その前に沙希ちゃんから電話があった話をしておこう。
僕がいつものように自転車で帰宅中に携帯電話が鳴った。
彼女は既に自宅に戻り夕飯の準備をしていると言う。
僕の好きな食べ物は何かと聞くと今日の夕飯はそれにすると言って電話を切った。
ただそれだけの為に電話をして来たとは思えなかった。
ちなみに僕の好きな食べ物は『鶏の唐揚げ』である。
僕はカラオケ店の階段を登り、受け付けの前を素通りすると聞いていた部屋番号の前に立った。
中は静かだった。
部屋のドアを引いて中に入る。
二人はそれぞれ生ビールとカクテルっぽい飲み物を飲んでいた。
「もー、待ちくたびれちゃいましたぁ」
「勇次くん!お疲れ!カラオケも飽きてきたとこだったよ」
(結構飲んでるっぽいな・・)
僕は「お待たせしました」と言い、空いてる椅子を引き寄せて座った。
「で、話ってなんでしょう?」
「まあまあ、その前に駆け付けの一杯!」
予想通り篠原さんは酔っていた。
「今日は車ですから、僕はコーヒーを貰います」
「えー、飲みましょうよぉ。つまんないじゃないですかぁ」
甘ったるい喋り方のよう子もかなりの酒が入っているように感じたが、この子はいつもこんな風なので良く分からなかった。
「今日は二人に話を聞きたくて来ただけですからお酒は遠慮しておきます」
そう言ってインターホンでホットコーヒーを注文した。
「私達とはもうお酒も飲めないのね・・」
「篠原さん、そうじゃありません。あなた達がどう言う経緯で辞めさせられたのか聞きたくて来たんです。それによっては僕にも僕なりの覚悟がありますから。そんな時に酒なんて飲んでられないだけです」
僕が一気に喋ると二人は黙ってしまった。
「篠原さん、あなたは会社を辞める事はしないと僕と約束しましたよね。よう子も何で辞めたんです?誰に勧奨を受けたんですか?」
勧奨とは、言わば肩たたきの事である。
勧奨を受けた社員は契約の在無に関わりなく、30日分の給料を受け取れる。
そう言う規則が我社にはあった。
二人の急過ぎる退職には誰かが勧奨を持ち掛けたのだと僕は践んでいた。