【件名:ゴール裏にいます】

「日曜に電話があったのよ・・」

篠原さんがポツリポツリと喋り出した。

電話の主は権田さんだと言う。
権田さんは日曜のうちに二人に連絡を取り、退職届けや書類、制服等を回収して行ったらしい。

突然の出来事に二人は僕に連絡をする暇もなく事は進められていった。

気が付いた時には現金で勧奨金を手にし、我社とは一切の関係は無くなったのだと言う。

(日曜・・)

僕が沙希ちゃんと部屋で情事にふけっていた時にそんな事が起こっていたなんて夢にも思っていなかった。

(馬鹿にしてる!完全な出来レースだったとは!)

「ま、そう言う事だから、今日は勇次くんとお別れ会でもしようと思って連絡したの。意味深に感じさせたのはそうでもいわないと捕まらないと思って」

「話は分かりました。僕の知らない所でそんな話しが進められていたとは言え、不徳の致す限りです。本当に申し訳ありませんでした」

僕は二人に向かって頭を下げた。

「ちょっと勇次くん、やめてよ!勇次くんは別に悪くも何とも無いんだから」

「そうですよぉ、あんな所いつか辞めるつもりだったんですから、余分にお金貰えて儲かっちゃいましたぁ」

二人には勧奨の意味が良く分かってないようだったのは救いだった。

僕は会社の臭いものには蓋をするようなやり方にはいささか不満だったが、僕一人が声を荒げてもどうにかなるような問題では無いのは分かっている。
ただ第二の篠原さんやよう子が生まれないように、これからは目配りを怠らないようにしなければいけないと心から思った。

モヤモヤしたものを心の奥底に感じながらも、僕はこの件に関してはケリを付けた。

つもりだった。

コーヒーカップに残っていた茶色い液体(とてもコーヒーと呼べる代物ではない)を飲み干すと二人にお礼を言って立ち上がった。

「えー、もう帰っちゃうんですかぁ。つまんないですぅ」

「今日はお別れ会なのよ!もうちょっと付き合いなさいよ!それにもう派遣と担当じゃ無くなったんだから無礼講だからねっ!」

「ちょ、明日も仕事なんで帰させて下さい。それに気になる事も残ってるんですから」

「何よ、気になる事って。さては女だな?」

「篠原さん、酔ってるでしょ。ごめんなさい本当に帰りますから」

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