【件名:ゴール裏にいます】
「じゃあ」と言って立ち上がろうとした僕を二人は本気で止めに掛かった。
「もう会えなくなるかも知れないのにそんな簡単に行かないでよっ!」
「え〜篠原さん、そんな事ないでしょ?僕の携帯知ってるじゃないですか」
「篠原さんはねぇ、勇次くんの事好きなんですよねぇ」
「よう子!余計な事は言わなくて良いから!」
「えーーぇ?」
「勇次くんて、鈍いとか言われませんかぁ?鈍感ですぅ」
「えーーーえ?」
「お願い!後1時間だけ一緒に居て!」
僕は二人にまんまと引き留められ1時間の約束で座り直した。
ちょうどその時に携帯の着信音が鳴った。
【件名:大丈夫?】
お仕事の続き終わりましたか?
忙しそうだったので心配してメールしました。
勇次君、大丈夫?
唐揚げ、上手にできたから今度作ってあげるよ。
【件名:Re大丈夫?】
うん。大丈夫ですよ。後1時間位で終わりそうです。
終わったらメールします。
「また例の彼女?」
「ええ、まあ・・」
「例の彼女って誰なんですかぁ?」
「いるらしいのよ。そんな女が」
「篠原さん、飲みが足りませんよ。奢りますから追加しましょう」
「あら?酔わせてどうするつもり?」
「よう子も何か頼みませんか?」
「あれれ?わたしも狙われてる?てる?」
「二人共、そんな訳無いじゃないですか。ほらメニューですよ。何にします?」
二人はそれぞれ今まで飲んでいた物を注文し、僕は烏龍茶を頼んだ。
二人の未来に乾杯してカラオケを再開した。
これ以上余計なお喋りをするよりはカラオケでも唄っていた方がマシだと思われたからだ。
よう子は見掛けによらずテレサテンなんか唄っている。
「よう子っていくつでしたっけ?」
唄の合間に聞いてみた。
「わたし、今年で30だよ」
「ええええ!!」
「えーーー!!嘘ぉー!私より年上ぇ?」
「だって履歴書には・・」
「ああ、あんなのテキトー」
そう言ってよう子、いやよう子さんは笑った。
どう見ても20代前半、見ようによっては10代にさえ見える。
(悪女だ・・女って本当に怖い・・)
よう子さんは涼しい顔で唄い続けていた。