【件名:ゴール裏にいます】
続いて篠原さんが工藤静香の『慟哭』を唄い始めた。

やっぱり篠原さんは工藤静香が似合う。
だって元ヤンでしょ?工藤静香。

次は僕の番らしいのでカラオケ本で唄を探していた。

篠原さんはまだ唄っている。

本を広げていると隣によう子さんが座ってきた。

「勇次くん、これ唄える?これ篠原さんの大好きな唄なんだよぉ」

そう言って指し示したのは久保田利伸の『Missing』だった。

ちょっと昔の唄だけど何とか解る。

よう子さんはリモコンで選曲すると僕の耳元で囁いた。

「わたしもこの唄大好きだからね・・」

ゾクゾクした・・。

故意かどうかは知らないけど僕の腕にはよう子さんの胸が当たっていた。
30歳と聞いて見方も変わったせいだろうか、妙な色香をよう子さんから感じた。

「人が唄ってる時にいちゃつかないでよねっ!」

唄い終わった篠原さんがブーブー言いながらステージを降りてくる。

「勇次くん、何入れたの?」

「内緒ですよぉ」

よう子さんが言う。

僕は篠原さんからマイクを受け取って、ステージへ上がった。

イントロが始まるとよう子さんが部屋の照明を落とした。

僕は深呼吸した。


♪言葉に出来るなら―――






唄い終わった。

「あれれ?篠原さん泣いてるよ?」

「バカ、うっさい!」

篠原さんはそう言うとよう子さんの胸で泣き崩れた。

(辛い恋でもしてるんだろうか・・?)

篠原さんが泣き止むのを待ってカラオケは終了した。



会計は二人の送別会だからと僕が払う。

領収書は貰わなかった。

すっかり酔っ払ってしまった篠原さんはよう子さんが連れて帰ると言う。

「送って行きましょうか?」

「うち、このビルの裏だから」

よう子さんは笑って言った。

最後に二人と握手をして別れた。




「『Missing』カッコ良かったよ・・」

篠原さんとよう子さんが別れ際に言った――。

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