【件名:ゴール裏にいます】

『小山!小山!小山!小山!小山!!』

凄い声援だった。

(この小山ってゴールキーパーはそんなに凄い選手なのか?凄い選手なら何で補欠?)

僕はトリニータの歴史も選手の名前さえも知らない。
五千人以上いる観客に一人で遅れを取っているように感じてしまった。

後半戦も残すところ3分位だろうか。
グラウンドの選手達は必死にボールを追い掛け回していた。

中でもトリニータの11番と9番の選手の運動量は半端じゃなく凄かった。
それでも後1点が取れないトリニータ。
時間はもう残ってはいないだろう。

『ピーーーッ!』

審判の笛が吹かれ試合は終了した。

と、思った。

僕は立ち上がり沙希ちゃんが来るのを待っていた。
だが、ゴール裏の集団は解散するどころか尚更気勢を上げていく。

(サッカーも延長がある?)

僕はこの時初めて知ったが、今シーズンのJリーグはVゴール方式が採用されていて前後半の90分で決着が着かない場合15×15分の延長戦へと突入する。
その延長戦でどちらかが1点を入れた場合に試合は終了する。
両チームともに点が入らなければ引き分けが成立する――。

(まだやるのか?)

グラウンドの選手達の中には倒れ込んで動けない選手もいた。

ナイターとは言え蒸し暑く、じっとしているだけでも汗ばんでくるのに、グラウンドで駆け回る選手達の疲労度は計り知れない。

この休憩中、沙希ちゃんは僕の所に来る事は無かった。

(きっと無我夢中で応援しているのだろう)

短すぎる休憩を経て選手達がグラウンドに姿を現した。
やはり疲労の色は隠せていなかった。

審判の短い笛の音を合図に延長戦へと突入する。
大宮はここで二人の選手を代えてきた。大分は既に三人の交代をしている。
延長戦の特別交代枠は一人。
監督の采配は試合にどう影響するのだろうか。



結局、延長戦前半も決着は着かずに、残すは後半の15分のみとなった。

僕はすっかりこのゲームに夢中になっていた。
グラウンドの選手達は誰ひとりとして手を抜く者はいない。それは審判にも言えた。
選手同様暑いグラウンドの上を右に左に駆け回る。

選手も審判も体力の続く限りにとばかりに一生懸命だった。

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