【件名:ゴール裏にいます】
「あの、相談って言うのは・・」
「そんなに焦らないで。少しずつ話すわ」
「でも僕もそんなに暇じゃないんで」
「またあの女と会うの?」
「あの女、あの女って那比嘉さんおかしいですよ?」
「おかしい?・・そうかもね。でもあの女さえいなかったら、おかしくはならなかったわ」
「それどう言う意味・・」
「好きだったのよずっと!同期で入社してからずっと好きだったわ!悪い?おかしい?それなのにあなたは私の気持ちも知らないで!」
「な・ひか・さん?」
「ねえ!私を見て!私だけを見て!」
(言っておきますけど、僕は二枚目な訳じゃないし、背も高い訳じゃない。
金持ちじゃないし、沙希ちゃんと出会うまでは童貞だった訳で・・・
なのに何?これは?ドッキリ?)
「そ、それは出来ません。那比嘉さんも知っての通り、僕には彼女がいますから、彼女の事を愛していますから。申し訳ありませんが期待には答えられません」
「そう・・そうなのね。あの女さえいなくなれば良いんだわ」
「ちょ、どうしてそんな話になるんですか!例え彼女がいなくても僕は那比嘉さんの事は何とも思えませんから」
ここで彼女は僕の方に向き直った。
そして僕の手を取り自分の胸へとあてがう。
凄い力で。
「あなたの事を考えるとドキドキするの。苦しくなるの。だからお願い、彼女と別れて私と付き合って・・・」
「やめて下さい!絶対無理です!何度でも言います、無理です!」
彼女は握っていた僕の腕を離した。
「もう良いわよ!そんな事言って!後悔させてやる!絶対後悔させてやるんだから!」
彼女はとうとう泣き崩れてしまった。
カウンターに突っ伏して、声を上げて泣き出した。
僕は慰める言葉を見つけようとはしなかった。
哀れな女をさげすむ目で見ていた。
「じゃあ、僕はこれで帰ります。那比嘉さん。あなたはもっと素直に生きるべきですよ。そうすればきっとあなたを愛してくれる人が現れます。ただ僕はそうじゃ無かっただけですから」
そう言ってドアの鍵を外し僕はお店を後にした。
市内一の繁華街はこれから賑わいを見せてゆくだろう。
自転車に跨がり、沙希ちゃんに電話した。
彼女の声は優しかった。