【件名:ゴール裏にいます】
【件名:ついて行きます】

「それでどの辺に座ります?」

沙希ちゃんはトリニータシートと呼ばれる黄色い座席の並んだ頂上からキョロキョロと辺りを見渡すと急に僕の手を掴み階段をずんずん降りて行った。

残念ながらここでの先輩は彼女だ。
僕は彼女に従い、手を引かれたままとうとう最前列まで降りたった。

スタジアム全体はすり鉢状態になっていて、10m以上ある落差は下から見上げると迫力さえ感じる。

彼女は誰かを探しているようだった。

「あっ!いた!」

お目当ての二人はゴール裏のほぼ中央に座っていた。

「早かったねぇ」

沙希ちゃんが二人に声を掛ける。
二人の視線は彼女を通り越して僕へと注がれていた。

「こんばんはぁ」

僕は申し訳程度にお辞儀をし挨拶をする。
二人も挨拶を返してくる。

「紹介するね。こっちが美由紀で、こっちが俊子」

「美由紀です。ミーって呼んで下さいね」

「俊子です。みんなはトンコって呼ぶけど・・」

ちょっとお姉さんっぽい方がミーさんで、大人しそうな方はトンコちゃんと名乗った。

「勇次です。よろしくお願いします」

「よろしくなんて堅苦しくしないで良いですよ」

ミーさんが言う。

「あなたが沙希の・・」

トンコさんが言った。

僕と沙希ちゃんは彼女らの真後ろの席に並んで座った。

ゴールマウスのちょうど真裏、前から5番目の席だった。

沙希ちゃんは彼女ら二人と何やら話しをすると、

「ちょっとここで留守番しててね」

と言い、荷物を抱えどこかに消えて行ってしまった。

三人の背中には「11」の文字が並んでいた。

ついでに言うと僕の背中は空白だった。

「お気に入りの番号はスタジアムで探すと良いよ」

沙希ちゃんはそんな風に言っていた。

しばらくして彼女らは戻って来た。

「どこへ行っていたんですか?」

「応援してる選手の横断幕を張りにね」

お姉さん系のミーさんが言った。

「三人とも11番の選手を応援してるんですね」

「そう!吉田孝行!チョー格好良い!」

大人しそうなトンコちゃんが嬉しそうに言った。

(ミーさんは沙希ちゃんより年上だな。で、トンコちゃんは同い年くらいかな?)

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