【件名:ゴール裏にいます】
初めて訪れた沙希ちゃんの実家はとても居心地が良かった。
まるで古くからの知り合いと会話をしているようにさえ思えた。
沙希ちゃんのお母さんの手料理はとてもおいしくて僕の母親を思い出させてくれた。
僕は思わず涙がこぼれ落ちそうになり、慌てて洗面所へと駆け込んだ。
「勇次くんどうしちゃったの?お腹でも痛くなった?」
洗面所のドア越しに心配そうな声で沙希ちゃんが聞いてきた。
「ごめんなさい・・すぐに行きますから沙希ちゃんテーブルに行ってて下さい・・」
「勇次くん泣いてるの?声震えちゃってるよ?」
「何でもないですから早くあっちに行って下さい・・」
そして僕はとうとう声を上げて泣き出してしまった。
「お母さ〜ん、勇次くん泣き出しちゃった。どうしよう・・あたしの作った鶏の唐揚げがまずかったのかなぁ」
そんな声が聞こえてからすぐに洗面所のドアがノックされた。
「勇次さん、ここ開けて。早く開けなさい!」
お母さんが怒ったように僕を呼んでいた。
僕は洗面台の蛇口で顔を洗って濡らしてからドアを開けた。
「勇次さん我慢しなくて良いのよ。泣きたい時には思いっきり泣けば良いの」
そう言ってお母さんは僕の事を抱きしめてくる。
僕は――――――。
僕は沙希ちゃんのお母さんの胸の中で思いっきり、声を上げて泣いた。
何でだろ?
何でこんなにも涙が溢れて来るんだろ?
とても幸せな気分なのに。
てか、僕のどこにこんなに涙が貯まっていたんだろ―――――――。
沙希ちゃんは「勇次くん・・・・・」と言ったっきり、黙って僕とお母さんを見ていた、らしい。
お母さんは僕と一緒に座り込むと、いつまでも頭を撫でていてくれた。
僕は僕の母親と同じ匂いのする胸でいつまでもいつまでも泣き続けていた。
「やっぱりお母さんには敵(かな)わないな・・」
ぽつりと沙希ちゃんが言った。