【件名:ゴール裏にいます】
「ただあの人は女を愛せない身体なの・・」
「え?」
「学生時代に起こした事故の後遺症って言っていたわ。あの日、勇次くんが潰れた日、あの人は勇次に抱かれて来いって言った。私が女だって事は忘れてはいなかったみたいね」
ここあさんはクスッと笑って僕の足を撫でてきた。
「私も生身の女よ。抱き絞めてくれるだけじゃ満足はできないわ・・」
「そ、それで権田先輩はどこに?」
「さあ?あの人の田舎は新潟だって聞いた事はあるわ。でもそこにいるかどうかは分からない」
(新潟か、町造部長なら詳しい住所を知ってるかもな・・)
「ここあさんは何故町造部長に伝言を?」
「だって勇次くんの携帯知らないもの。会社に電話した時に偶然出たのがその人だったのはラッキーだったわ。こうして勇次くんにまた会えた・・」
「ここあさん僕あの会社今日辞めたんです。これからは何かあったら携帯の方に連絡して下さい」
テーブルの上にあったコースタに携帯の番号を書いてここあさんに渡した。
ここあさんはコースタを折りたたんでパンツの腰の部分に引っかけてから僕の方に向き直って言った。
「それで?今日はテイクアウトはあるの?ご主人さま」
ここあさんの手は僕の部分ギリギリを撫でていた。
「失礼します。お時間でございます」
ボーイがどこからか現れてタイムアップを知らせた。
「ここあさんごめんなさい。今日はこれで帰ります」
「んもう・・」
「僕も無職なんで無駄遣い出来ないんですよ」
「ばか・・・・」
表へ出て流しのタクシーを拾い、アパートまで走らせた。
(そう言えば、ここあさんおかしな事を言っていたな)
『今の仕事が落ち着いたら』
(権田先輩はただのスタッフでは無かったのか?そうでなければあんな言い回しはしないだろう)
僕は何とも不思議な気持ちでタクシーに揺られていた。
(権田先輩、あなたは一体何者なんですか?)
目をつむり、権田先輩の事を考えてみた。
僕がいつも見ていたのは居酒屋『とり蔵(ぞう)』で酒を飲む姿だ。
権田先輩はほぼ毎日と言って良いほど居酒屋『とり蔵(ぞう)』に通っていた。