【件名:ゴール裏にいます】
大分市内中心部にほど近いファミリーレストラン『ジョイフル』。
土曜日ながら午前中のファミレスは比較的空いている。
僕らは窓際の角の席に座りオーダーを取りに来たウェイトレスさんにドリンクバーを頼んだ。
「篠原さん朝食は?」
僕の問い掛けにただ首を横に振るだけの篠原さん。
彼女は彼女なりの覚悟があるように見てとれる。
「コーヒーで良いですか?」
篠原さんはそう言うと席を立ち、ドリンクバーに向かった。
「あ、すいません」
言って、篠原さんの後に続く。
ドリンクバーで二人並んでエスプレッソをカップに注いだ。
篠原さんとこうして二人になるのは面接の時以来だ。
地元の高校を卒業して経理専門学校へ進学。
そこで同期生の彼氏ができ、卒業を待って結婚、出産。
女の子に恵まれたものの夫とは離婚し、現在実家で両親と暮らしていた。
ちょっとヤンキー気質の姐御肌な所は面接当初から匂わせていたが、僕は篠原さんを即決で、リーダー候補として採用する事を支社長に報告した。
篠原さんは僕の目論む通り姐御肌を発揮し、小グループをまとめていた矢先の事だった。
同じ現場によう子と言う女の子がいる。
よう子は明るく天真爛漫で、喋り方がおっとりしている為、時には誤解を招く事もあった。
いわゆる、トロそうに感じるのだ。
それに目を付けた派遣先の女子正社員が、いじめていたらしい。
篠原さんも最初は見て見ぬ振りをしていたが、エスカレートしていくうちに我慢の限界に達してしまった。
事の発端はこうだ。
いつものようにグループで作業をしていると、よう子のミスでラインがストップしてしまった。
それを目にした女子正社員が悪態をついた。
よう子は相変わらずおっとりと「すいませ〜ん」と返したものだから、事態は悪化し女子正社員がよう子の事を汚く罵り出したのだと言う。
我慢に我慢を重ねていた篠原さんは女子正社員に食ってかかり、最後にはつかみ合いにまでなりかけた。
篠原さんから聞いた話の流れはざっとこんなもんだった。
いじめが始まってすぐにでも僕や現場の責任者なりに相談してくれていればこんな事にはならなかったのかも知れない。
だが、起きてしまった事は無かった事には出来ない。