【件名:ゴール裏にいます】
車内に緊張感が走った。
沙希ちゃんにはももちゃんの事は話して無かった。それをここあさんに伝えるのを僕は忘れていた。
「も、ももちゃんは私の勤めているお店の新人さんだったの。権田さんがいなくなった二日後に彼女の姿も消えたのよ。で、調べたら彼女の出身地も新潟だったって訳」
「なるほど、それは怪しいですね・・。名山さんはどうして権田さんと知り合ったんですか?」
「そ、そうね。合コンみたいなものだったかしら」
僕はここあさんの引き攣(つ)る顔が頭に浮かんだ。
「名山さんみたいな綺麗な人でも合コンに行くんですね。あたしは短大時代に一度行ったっきりで、もちろんお酒は飲まなかったですけど。あまり楽しくは無かったなぁ」
「ま、まあね、女も歳を重ねる毎に色々あるのよ。そっちはどうなの?二人の出会いは?」
「それは関係ないじゃないですか?」
僕が口を挟んだ。
「ちょっと沙希さん教えなさいよ」
「そうですね・・」
沙希ちゃんは少し考え込むように黙った後で言った。
「良い機会だし、時間もたっぷりあるから話しちゃおうかな?勇次くんにも聞いて欲しいし・・」
「え?僕にもですか?」
「うん。勇次くんに聞いて欲しい話があるの・・」
そう言って彼女は静かに話を始めた。
「あたしが短大に入学して三ヶ月くらい経った頃かな、お父さんが酔っ払い運転の車に跳ねられて、死んじゃったの」
(うん、その話は聞いてる)
「車を運転していた人はまだ未成年で車両保険にも入ってなくて、両親もどこに住んでいるのか分からないような人だった」
(・・・)
「裁判で有罪になったけど、あたし達はお父さんがいなくなった事実だけが残った。あたしには一つ違いの妹がいるんだけど、まだ高校生で北海道の大学を目指して受験勉強の真っ最中だった。彼女には獣医さんになるって夢があったから、あたし短大を辞めて働くってお母さんに言った。家計の負担は目に見えていたからね」
(・・・)
「そしたらお母さん怒っちゃって、『沙希にも夢はあるんでしょ?』って言われた。あたしは本が大好きで、将来は絶対に図書書士になりたかった。お母さん、泣きながら『沙希の学費くらいなんとでもなるから』って・・」