【件名:ゴール裏にいます】
車に戻りると沙希ちゃんは後部座席を独り占めして寝ていた。
起こすのはかわいそうだからとここあさんは助手席に乗ってきた。
ステーションワゴンを発進させ徐々にスピードを上げ本線に合流する。
ここあさんは流れる景色を見つめ、時折案内板に書いてある地名を読みあげたりしている。
「勇次くん、サッカーっておもしろいの?」
不意にここあさんが聞いてきた。
「ええ。おもしろいですね。僕も見始めたばかりだから詳しい解説は出来ませんけど、サッカーはおもしろいです」
「ふーん。沙希さんも言っていたから聞いてみただけ」
「ここあさんはどうするんですか?」
「何が?」
「トリニータとアルビレックスの試合ですよ。僕と沙希ちゃんは当然行きます。その間ここあさんはどうします?」
「ここあさんて何?」
突然ムックリと起き上がった沙希ちゃんが聞いてきた。
「あ、お、起きました?ここあさん何て言ってないですよ・・」
「あたしS.A.を出てからずっと起きてたの。トイレ行きたくなって、そう言おうと思ったら二人が話し始めて・・だからそんなんじゃごまかされないよ」
「ばか・・」
ここあさんは僕を横目で見て言った。
「勇次くん、ねえ、ここあさんて名山さんの事なんでしょ?」
「沙希さん、それは私から話すわ。ここあって私の源氏名なの。あなただったら分かるでしょ?しかもあなたと私は同じお店だったみたいね」
「名山さんが?あたしと同じ・・」
「そう。あなたは辞めたけど私は今も続けているわ。嘘をついてごめんなさい。勇次くんには黙っててって私からお願いしたの」
「じゃあ、権田さんとはそこで・・」
「そうよ。私のお客さんだったの権田は」
「婚約者って・・」
「それは本当よ。結婚申し込まれたもの」
「何で嘘ついたんですか?あたしが軽蔑でもすると思ったんですか?勇次くん次のS.A.で停めてちょうだい」
「沙希ちゃん何するつもり・」
「トイレよ!トイレに行きたくなったって言ったでしょ?別に逃げたりしないわよ。ちょっと頭も冷やしたいだけ!」
「わかりました・・」
「ももちゃんって人もそうなのね?」
「はい」
沙希ちゃんは俯いたまま何かを考えていた。