【件名:ゴール裏にいます】
一番近いS.A.まであと10kmの案内板があった。

沙希ちゃんはずっと俯いたまま考え事の続きをしている様子だ。

もしかしたらトイレの限界が近づいているのかも知れないと思った僕はアクセルを少し踏み込んだ。

S.A.に着くと沙希ちゃんは車を飛び出すようにして降りて言った。
後を追おうとした僕をここあさんが制した。

「私に任せて」

ここあさんはそう言い、沙希ちゃんの後を追い掛けて行ってしまった。
僕は仕方なしに車で待機する。

車の窓を開け、マルボロに火を点けた所でメールが着信した。


【件名:だいっ嫌い!】
嘘つきの勇次くんなんてだいっ嫌い!
これからは嘘をつかないって約束してくれるまでトイレから出て行きません!


(まるで子供だな・・)


【件名:Reだいっ嫌い!】
ごめん、沙希ちゃん。
これからは嘘をつかないって約束します。
だから出ておいで。名山さんも心配してます。


【件名:ReReだいっ嫌い!】
ほんとに約束する?


【件名:ReReReだいっ嫌い!】
本当に約束します。だから早く出て来て下さい。


【件名:ReReReReだいっ嫌い!】
ほんとにほんとにほんとだね?
カニいっぱい食べて良い?


(ぐわぁ!目的はそれかよ!)


【件名:ReReReReReだいっ嫌い!】
それが言いたかったんですね?
分かりました。
けど、そんな手が通用するのは今回だけですからね。


【件名:ReReReReReReだいっ嫌い!】
勇次くん大好き!


(沙希ちゃんの大好きなのはカニなんでしょ・・)




しばらくは「カニカニ」騒いでいた沙希ちゃんもまた眠りにつき、車内は静かになった。

僕は中国自動車道をひたすら東に向けて走ってゆく。

あと2時間も走れば大阪だ。そうしたら中国自動車道に別れを告げ、名神高速道路へと乗り換える予定だった。

走り始めて8時間。結構なロスはあったものの、まあ順調にここまで来たと言える。

名神から中央自動車道、さらに北陸自動車道を経て新潟市内にたどり着く。

僕は後ろの二人を気にしながらもアクセルを踏み込んだ。

「カニ・・・」

沙希ちゃんの寝言だった。

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