【件名:ゴール裏にいます】
運転席を沙希ちゃんに譲り言われた通りに僕は後部座席で横になっていた。
目をつむると一瞬にして睡魔が襲ってきた。
ステーションワゴンは長野自動車道を北に向かって走っている。
しばらく暗い闇の中をさ迷っていた僕は彼女らのボソボソ話す声で目が覚めつつあった。
「―――ゃあ、名山さんて普段は下着つけてないんですか?今も?」
「そうね。プライベートではほとんど下着はつけないわ。下着は私にとって制服みたいなもんだわ」
「あ!ほんとだぁ!ブラしてなーい!」
「ちょっと、前をちゃんと見てよね!」
「じゃあ、し、下も?」
「そうよ。ガーターベルトでストッキングを留めているだけだから」
「あたしガーターベルトって着けた事ないなぁ・・」
「あら、あなたにプレゼントしたバッグの中にあるわよ。夜にでも付け方教えてあげるわ」
「それで勇次くん誘惑したらおもしそぉ!」
「あ、あなた幸せそうね・・」
(ちょ!眠れねー!)
それでも再びまどろんでいると今度は本格的に起こされた。
「勇次くん、勇次くん!起きて!」
「着きました?」
「うん。もうすぐ新潟中央だよ。その先の新潟亀田で高速降りれば良いんだよね?」
「そうです、そうです。降りたら49号線を東に走って下さい」
「ちょっと東ってどっちよ」
「とりあえず降りたら左折して適当な所で停めて下さい」
「はーい・・」
(やっとここまで着いたか。こんな苦労して手ぶらじゃ帰りたくはないな・・)
国道49号線を少し北に下った所にガソリンスタンドがあった。
僕は沙希ちゃんにスタンドに入るように言い労いの言葉を贈る。
スタンドに乗り入れ、ハイオクを満タンするように頼んでトイレに入った。
トイレから出て来ると一人のスタンドマンが話し掛けてきた。
「お客さん、ひょっとして大分から見えられたんです?」
「そうです。夕べの7時に向こうを出て来ました」
「今夜の試合の為に?」
「まあ・・」
「へえ、単独で、しかも車で来る人ってめずらしですよ」
「自分でもそう思います。あ、この辺りに石本酒蔵さんてあります?」
「それだったら・・」