first contact
- first contact -


―――サクラサク。


桜が綺麗に咲いていた。
ほんのり冷たい風が胸元を掠んでゆく。
身震いする肩が強張ったままで、少し薄着だったか、と後悔した。
季節はもうすぐ、春になる頃だった。


この春から、望んでもいない大学生活が始まる。
望んでいないなんて言うと、かなり贅沢なのかもしれない。
けれども、親の体裁のために入学する大学。俺にはその意味がまだ見出だせなかった。


大学は実家からさして遠くはない場所だったけれど、俺は春から一人暮らしを始める。家賃は、俺持ち。
どちらも俺から願い出たことだった。

ずっと遊んでいたいのが本音だけど、早く大人になりたい、と背伸びしてしまうのも事実だった。


けれども、いざ一人暮らしとなると、何もかもが面倒臭く感じてしまうわけで。
安くて大学から近いアパートなんて、いくらでもあるのだ。

うんざりしながら、大学の周りをぶらぶら散歩していると、こんな住宅地の間に一台だけポツンと煙草の自販機が鎮座していた。

何となく目をやると、そこに濃い紺色の箱を見つけ、自然と足が止まった。
俺の吸う煙草の銘柄だ。

コンビニでもあまり見かけないというのに、その箱がこんな場所、しかも自販機で売っているなんて。
なんだか皮肉の笑いが零れたと同時に、俺は再び歩き始めた。


春から住むアパートは、自販機から徒歩数分にある所に決まった。
大家さんはとてもいい人だった。

暦はもう、四月へ移り変わる頃だった。
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