first contact
 ムッとしたわけではない。
ただ、初対面同然の彼女に、こうも嫌われるのは、何となく気に食わなかった。
「放っといて下さい」その言葉がぐさりと突き刺さって、抜けない。
顔は悲しみで強張ったまま。

「……そっか」

思っていたよりも、冷たい声が出た。
俺の親切心もズタズタだ。
これ以上、俺が彼女にしてやれる事はない、と思う。
この後彼女がどうするのかは分からないが、俺がこの場にいても、彼女の機嫌が悪くなっていくだけだ。
そう思い、音もなく立ち上がった。

上から見た彼女は、何だか小さく感じた。

「……じゃあ、気をつけて帰ってね」

なんて薄情な言葉なのだろう。
そう呟いた後でさえ、その場から足を動かすのを躊躇わせる。
けれども、突っ立っているわけにもいかなくて、鉛のような足を動かした。

静まり帰った駅のホームに、地面を擦る俺の足音が響く。
とても寂しい感じがした。

階段を下りる。

一段。


また一段。



「待って!」

さらに足を動かそうとした時、後ろから声がした。
大きい声だとは言えなかったけど、それでも、この静まり返った場所では十分だった。

心臓がドクンと鳴るほど、俺はその声に驚いたのだ。

一段下り、後ろへ振り返る。

再び静まり返ってしまったこの空間が、不安に駆り立てる。

階段を下りてもなお、少し低い位置にある彼女の顔は俺を見上げていた。
真っ直ぐに俺を見る彼女は、やはり綺麗な顔をしていた。

目が赤い。泣いていたのか?

喉の奥がキュッと痛くなる。
俺は無言で彼女を見つめ返した。

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