first contact
 視線に負けたかのように、彼女は少し経つと、目を伏せた。

「……お金、貸して」

さっきの声はどこへやら、低い声でそう呟く。
迫力よりも、頼りなさが強く彼女に纏わり付く。
思いがけない質問にキョトンとする自分は、何だか間抜けだった。

「なんで?」

声まで間抜けだ。

彼女は少し黙って、またそっぽを向いてしまった。

「……言いたくない」

「じゃあ、貸さない」

再び沈黙が戻る。
彼女はまた押し黙ったまま、どこかを見ている。
言葉を探している風とも、何か必死に考えている風とも見えない。
さっきの彼女の赤い目が脳裏に蘇り、再び喉が詰まるような感じがした。
今度は、こっちが沈黙に負けるかのように、小さな溜め息が漏れていった。

「……いくら?」

まだ貸すと決めたわけじゃない。
けれども、金額と用途が分からなければ、何とも言えない。

彼女はキュッと結んだ口を開く気配も感じさせないほど、静かに呟いた。

「……千円」

「せ、千円?」

声が上擦った。
聞き間違いではないかと復唱するも、彼女はコクリと小さく頷いた。どうやら間違いではないらしい。

「千円でいいの?」

しつこく念を押すと、彼女は赤い顔を上げた。
少し怒ったような目で、見上げている。

「悪かったな、千円も持ってなくて」

ムスッとした言い草が、何だか子供のようだった。
恥ずかしさ余っての不機嫌なのか。そう思うと、自然と笑いが零れる。
初めて彼女の人間らしいところを見たような気がした。


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