first contact
「千円くらいなら別にいいけど……、何に使うの?」

「……言いたくない」

彼女はまた視線を逸らす。
たった千円で何が出来ると言うのだろうか。
高校生の金銭感覚とは、俺はもう程遠く離れてしまったのか。
ついこの前までは制服を着ていたというのに。


それにしても、どうしようか、と押し黙ってみる。
貸すとしても、千円くらいなら可愛いものだ。

眉を顰めてみるも、ますます分からなくなっていく。

そもそも、

「……なんで言いたくないの?」

「笑うから」

「笑わない」

「嘘、絶対笑う」

「笑わないって」

何だ、と内心薄笑いしながら、彼女をじっと見つめてみる。
もちろん、顔は真剣のつもりだ。
彼女は口の中の言葉を出すか出さないか躊躇いながら、視線を泳がしている。

意思を決めたか、彼女は俯き、荒々しく髪をガリガリと引っ掻いた。
低い声。それから、ぶっきらぼうにこう呟く。

「……あの……、タクシー代」

「は? タクシー代?」

思わず聞き返してしまった。
予想していなかった答えに、唖然。
言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
それから、「家までの?」と付け加えた。

彼女は顔を上げずに、頭を縦に振った。
彼女は耳まで赤くなっている。

一瞬で笑いが込み上げてくる。

それから、どこかほっとした。

……なんて強がりなんだ、と。

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