first contact
 そっと彼女の近くにしゃがみ込む。

「……足、くじいたの?」

黙って、コクリと頷く彼女はどこか素直で、弱々しかった。
髪に触れようかと一瞬戸惑ったけれど、また怒り出しそうな気がしたので、手は空に浮いたまま、行き場所を失くしてしまった。


「いいよ、貸したげる」

彼女ははっとしたように、顔を上げた。

「……」

言葉はない。
彼女が顔を上げると、予想していたよりも二人の顔が近くにあって、思わずドキリとした。

一瞬で唇を奪える距離。

……なんて、不埒な考えが出て来るのは、俺がさっき合コンに行っていたからか。
何だか笑える。
まあ、そんな気は毛頭にないはずなのだけど。


「とりあえず、改札から出よう」

そして、立てるかどうか尋ねようとした口を噤む。


――ああ、どうしてもっと早く気付かなかったんだ。
危うく、放って帰るところだった。

彼女はどうやら重傷らしい。
聞くまでもない。おそらく、立てないのだ。

くるりとそのまま彼女に背を向ける。
それから、低く屈んで、

「おんぶ。早く」

促すと、細い腕がするりと肩から伸びてきた。
彼女は黙ったままだ。
それがどこか素直に感じてしまう俺は、もう、彼女の刺々しさを普通だと思ってしまっていて。
すっかり彼女の空気に惹かれていたのかもしれない。
なんて、笑える話だ。


おんぶなんて、何年振りにしたのだろう。
手探りで彼女の足に手を掛ける。
何だか俺がセクハラしているみたいで、恥ずかしくなった。

人一人を背負って立つのは、こんなに大変なのか。
ゆらゆら立ち上がる自分が情けない。
彼女の脚を放さないように、注意を払って、階段を一段一段降りていく。

自分達のいびつな影が、何だか不思議で、この蒸し暑い空気に見せられた幻影なのではないか、とぼんやり思っていた。


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