first contact
 夜の駅はすっかり明かりも消えていて、昼間の賑やかさは今はない。
一人ぼっちで明かりを燈したコンビニを過ぎると、閉まった店のシャッターが並んでいて、駅前だというのに、もう辺りは真っ暗に近い。
人気なんて、全く感じられない。
ここも田舎の駅だという事だ。


「ちょっと」

背中から声がする。
凄むような表情が何となく目に浮かんだ。

「タクシー乗り場はあっちなんだけど」

彼女の片腕が、進行方向の逆を差している。
けれども、足を止める気なんてない。
そんな事は分かっているのだ。


「聞いてます?」

「聞いてるよ」

俺の返事を聞くと、噛み付くように彼女は「じゃあ」と口調を苛立たせた。
それを遮るように、ずり落ちてきた彼女の体をわざと背負い直す。
彼女は慌てて、俺の首へぎゅっとしがみついた。


「あのねぇ、雅ちゃん、バイトした事ないでしょ」

「はぁ?」

不可解だったのか、雅ちゃんの声が裏返る。
表情が見えない分、喧嘩腰のようにさえ感じる。
それでも、構わずに続けた。

「千円の価値がどのくらいか、分かってないでしょ」

まぁ、さっき千円くらいなら貸してもいいか、なんて考えていた俺に言えた事ではないか。
彼女には口が裂けても、言えないけれど。

「俺だったら、タクシーで千円使うくらいなら、友達なり家族なり、人を頼るね」

「そんなの、いきなり迷惑じゃん。嫌に決まってるでしょ」

ぴしゃりと言い返す彼女の口調は、さっきの冷たさを帯びていて、俺は、はぁ、と小さく溜め息を吐いた。

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