first contact
 満希さんに会釈しながら、玄関の戸を開けようと手を伸ばしたした瞬間、それは凄いスピードで逃げていった。
不思議なことに、俺にはそれがテレビのスローモーションみたいに、ゆっくり流れて見えたような気がした。

勢い良く開けられた引き戸は、激しく打ち付けられ、少しだけ反動で戻ってくる。

目の前には、女の子が立っていた。

肩ほどまでの髪が、太陽に照らされ、薄茶色に透けている。
風と一緒に舞い込む髪と、優しい香りが、神経を狂わせる。
息が詰まりそうになった。


長い睫毛が上がると、きりりとした目の輪郭が露になる。
まだ、あどけない化粧が施された目と、硝子のような瞳。


美しい髪、顔、肌―――。



……危ない。見とれていた。こんな、幼い子相手に。

まだ高校生かそれくらいだろう。とは言っても、俺とたいして歳は変わらないのだろうけど。

確かに、綺麗な子だった。

たった一瞬の出来事が、情報として俺の脳に入ってくるまでに、だいぶ時間がかかったような錯覚さえも感じさせる。


理性の戻った途端、彼女にとって自分が邪魔なのだと気付き、慌てて道を空けた。

「あ、ごめん……」

急に世界に音が戻ったような気がした。
けれども、目の前の少女は言葉を口から出すこともなく、ツカツカと俺を横切っていく。

「こら、“ただいま”でしょ」

満希さんが呆れ顔でどやすと、彼女は低い声で「ただいま」と呟いた。
それはとても挨拶とは呼べないようなものだった。


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