first contact
 彼女の背中が見えなくなると、俺は慌てて視線の先を満希さんへ戻した。
満希さんは困ったように小さく笑った。

「ごめんね、無愛想な子で。うちは三人姉妹でねぇ、雅は末っ子だからか、全然言う事きかなくて……」

「へぇ、三人姉妹ですか……」

空返事をしながら、頭の中には彼女の動作が再生されている。

記憶の中の彼女は、かなり不貞腐れていて、今になって、不快だと感じ始める。
それが、さっきの実物と同じかどうかは、もう、わからないのだけれど。


それから、間違いなく、彼女とは仲良くなれないだろう、と確信した。


じゃあ、と満希さんに再び挨拶して、俺は大家である藤代家から外へ出た。

春の陽射しが雲の割れ目から漏れていて、空は少し薄暗い。
微かに肌寒さが、薄着の俺の背筋を笑わせる。

砂利の道を歩いて、アパートの階段に足を掛けていくと、階段は固い金属音を鳴らした。

< 5 / 16 >

この作品をシェア

pagetop