first contact
 冷房の効いた車内。電車に乗り込むと、冷たい空気が汗ばんだ肌に吹き付けた。

季節はもう夏か、と今更になって実感する。
普段は電車に乗るより徒歩の方が多いけれど、久々にそれに乗ると、人々がいかに季節の移り変わりに敏感であるかが思い知らされるのだ。

車窓の向こうには、紺色の空と無数の光が見える。
なぜだか、その夜空の明るさに落ち着きを覚え、俺は近くの手摺りにもたれ掛かった。


暦は七月。俺の大学生活が始まって三ヶ月が経ち、もうすぐ夏休みだ。

大学生活は、それなりに楽しかった。
生活費や遊ぶ金欲しさにバイト三昧ではあったが、遊べる毎日。
勉強はしなくとも、それなりにやっておけば、困りはしない。

博打も、女も、やりたい放題に遊んで回れるのが、だらしない一人暮らしの特権で。
今では、大学に来て良かったと思っている。

だって、人生でこんなに遊べるのは、きっと今だけだと心のどこかで分かっているからだ。


不埒な心が脳裏を過ぎりながらも、俺はポケットの携帯電話を取り出す。
ついさっき、電話帳に追加された名前を選び、メールの文を考える事にした。

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