first contact
 あ。と思った。

下り階段の中程に、女の子が座り込んでいたのだ。


……泣いているのか?

何となく、そう思った。


酔っ払いなのだろうか。
靴は脱げていて、ボロボロな様子だ。

恐る恐る近付くのでさえ、躊躇ってしまう。
こんな時間に、年頃の女の子がこんな場所で座っていていいはずがない。
最近の世の中は、物騒なのだ。

そして、俺の前にも、何人かがこの階段を通っているはずなのに、誰一人、声も掛けなかったのだろうか。なんて冷たい町だ。

だけど、俺も親切心だけで出来ているわけではない。
関わって、変な事に巻き込まれるのは御免だ。

俺はよほどお人よしなのか。
それでも、放っておく事はできなかった。


「……大丈夫、ですか……?」

脈が早くなっているのが、自分でも分かる。
一瞬のうちに、緊張の空気がこのまま続くのかと錯覚するほどだった。

しばらくして、黙り込んだ女の子は、蚊の鳴くような声で呟いた。

「……放っといて」

冷たい語調。
最近の若者は怖い。
通りで、彼女が未だここに座っているわけだ。
彼女に声をかけたのは、俺だけじゃなかったらしい。

もう、駅員に任せるべきか。


早くどこかへ行けと言わんばかりに、彼女は顔を上げ、ギロリと俺を睨みつける。
鋭く凄んだ目は、少し赤くなっていた。

それから、俺ははっとした。

< 8 / 16 >

この作品をシェア

pagetop