新月の兎
新月の兎
人1人いない夜道はとても心細いものです。

3メートル程の距離を置いて立ち並ぶ街灯の光りが、どこか暖かくも寂しく感じます。

暖かく感じるのは、その光に群がる小さな虫がきらきらと煌めいて、太陽の輝く朝のごとく、光の粉が舞っているように見えたからでしょうか。

はぁ、と短い溜め息をはきます。

白い息が飛び出したかと思うと、冷えた空気に飲み込まれてしまい、すぐに消えてしまいました。

1台の赤い車が通り過ぎていきます。

ランプが明るく道を照らし、運転手に道を見せます。

なんだか、車の存在、いえ、運転手……人の存在に安心している自分がいます。

光りを引っ張って遠ざかる車を、エンジンの音に耳をすませながら目で追います。

角を曲がっていきました。

私もあの車と同じ角を曲がります。

なぜだか理由はわかりませんが、小走りで、遠ざかるエンジンの音を追い掛けました。

角を曲がります。
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