新月の兎
兎は目を赤く輝やかせると、角を曲がり、逃げていってしまいました。

「あの」

私は近付いてくる女性に声をかけました。

「兎、私も追い掛けましょうか?」

とても美しい女性です。兎のように白い肌をおもちで、羨ましく思いました。

「ありがとうございます」

そう言って微笑む彼女に、私も微笑み返します。

そして、上着と靴を差し出しました。

「このままでは風邪を引いてしまいますし、足も、怪我をします」

「あなたは?」

「平気です」

嘘をつきました。
本当は寒くてたまりません。地面は冷たく、靴下を履いていても足が痛くなってしまいそうです。冷たい空気は私を刺してくるように感じます。

しかし、仕方がありません。

女性が上着を着て、靴をはいたのを見ると、私は

「行きますよ!」

と声をかけて走り出しました。


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