新月の兎
ぼんやりと白く輝くものが見え、それが兎だと感じた私達は、走る速さを速めます。

「まって…!」

と、隣で女性が兎に声をかけます。
が、兎は全く聞こえてないようで、ぴょんぴょこと逃げ回りました。

よそさまの家に逃げ込まれた時は本当に困りました。

女性と2人でしゃがみ込み、出てくるまで待ったものです。

カンカンカン。

女性が足音を立てて螺旋階段を上っていきます。

私もその後に続きます。

疲れから足がもつれ、転びそうになりました。

靴下の足から。手すりをもつ手から。鉄の冷たさが伝わってきます。

手伝う、なんて言わなければよかった、と思ってしまいました。ごめんなさい。




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