白いジャージ5 ~先生とラベンダー畑~
「俺、結婚しようかな」
一瞬、タカが言ったのかと思ったが、声の主は翼先生だった。
「まじっすか!!」
驚くタカに、俺は言う。
「先越されるぞ!」
タカは、ため息をついてうつむいた。
「女心はよくわからないが、タカ自身の気持ちはどうなんだ?結婚したいって思う?」
俺の問いかけに、タカは苦笑いを浮かべながら首をかしげた。
こういうところが、美穂ちゃんを不安にさせるんだろう。
物足りないと思わせてしまう原因かも知れない。
「何だよ、それ。自分のことだぞ?」
「そうですよね。結婚をするなら美穂以外考えられない。でも、今はまだ早いかなって思う気持ちもある。自分に自信がないって言えばかっこいいけど、多分まだやりたいことがいっぱいあるだけなんです」
翼先生は、タカを見て、昔の俺に似ていると言った。
翼先生は、昔の自分がいるから今、心から結婚したいと思うのかも知れないと言った。
「後悔してますか?」
「後悔はしていないよ。桃ちゃんに出会えたからね」
翼先生の過去の恋愛も、きっと俺に負けないくらいほろ苦いんだろう。
みんないろんな想いを抱えて生きている。
相手のことを全部受け止める覚悟や自信が誰にでもあるわけじゃないし、実際そんなものは俺にもないのかも知れない。
自信なんて、俺にあったか?
無理して、自信があると自分に言い聞かせて、前を見ていた時期もある。
だって、俺はどうしても直を失いたくなかったから。
最初から自信があるヤツもいないし、何もかも受け止めるなんてできそうでなかなかできない。
それでも一緒にいたいと思える相手なら、きっと一緒になれる。
タカと美穂ちゃんの愛が本物かどうか、これから試されるんだと思う。