白いジャージ5 ~先生とラベンダー畑~
ドキドキがハンパない。
小学校の頃、好きな男の子の家にバレンタインのチョコを持っていく時みたいな。
とにかく緊張する。
待ち合わせは、直の家の最寄り駅。
約束の時間の2分前。
携帯を開いた途端に、電話が鳴った。
ロータリーに見慣れた車。
いつものように助手席の扉に手をかける。
今までは、自分の為の助手席だと思っていた。
ありがたく思うことなく、この車に乗っていた。
今までと同じ車なのに、今までとは違う気持ちで乗り込む。
懐かしい匂い。
香水と芳香剤の匂い。
後部座席のクッションは、昔のままでほっとした。
「急にごめんな」
「ううん。私こそ」
わけのわからない返答をする私。
「何、緊張してんだよ」
優しい声で話しかけてくれるたっくん。
緊張して、前を向いたままの私。
「どこ行く?」
「どこでもいい」
まだたっくんの顔を見ていない。
目の端に入るたっくんは、赤いTシャツを着ているようだ。
懐かしい。
何年も会ってなかったんじゃないかと思った。