冬恋物語-Winter love-



試験場に着き、カバンから出した受験票を握り締める。


「──っ!」


急に強い風が吹いて、一瞬私は思わず目をギュッとつむった。


「あっ……」


目を開けた時、私の手に受験票は無く、さっきの風にさらわれてしまった。


飛んでいく受験票を、急いで追い掛ける。


受験の日は、物を落としちゃダメなのに。


ましてや受験票なんて……。


コンクリートに着地しようとしている受験票を、


黒い手袋をはめた手が捕まえた。


「ナイスキャッチ!……だと思わねぇ?」


「……」


赤茶色の髪の毛の男の子が、地面に手をつきながら私を見上げている。


「落ちたら不吉じゃんね?良かった良かった」


男の子は立ち上がり、私の手に受験票を握らせる。


「あ、ありがとうございます……」


男の子の学ランには、1つもボタンがついていなかった。


「どういたしまして。アンタも、ここ受けるの?」


「あっ、はい」


「お互い頑張ろうな〜」


そう言った彼は、私の目の前に拳を突き出してきた。


その拳に、自分の拳をコツンとあてる。


「んじゃ!」


それだけ言い残し、男の子は走っていってしまった。


あんな格好で受験に来るなんて……。


彼の後ろ姿を見つめながら、手の中にある受験票を見つめた。


受験のドキドキに、新たなドキドキが加わった気がした。




春、桜が咲く頃に、出会えたらいいな。


なんて考えながら、


胸に拳をコツンとあてた。












end
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