冬恋物語-Winter love-
外に出て息を吐くと、空気が真っ白になった。
赤いチェックのマフラーで口を覆い隠し、手を擦りあわせている高梨を、
俺は横目で見る。
「黒河君が手伝ってくれへんから明日も放課後残らなアカンやん」
「あぁ」
こいつは多分、俺が手伝わない理由を知らない。
「……」
「……」
街灯がポツリポツリと並ぶ夜道を2人で並んで歩きながら、
明日も高梨と一緒にいられるという嬉しさに浸っていた。
「……寒いなぁ」
「……」
そう言った高梨の小さな手は、手袋をしていなかった。
そういえばこの前、妹に手袋を取られたとか言ってた気がする。
馬鹿だな、全く。
俺はそっと、高梨の冷たい手に触れた。
微かに高梨の手がビクッと動く。
そのまま掴み、俺のコートのポケットへと高梨の手を誘拐した。
ポケットの中で、高梨が俺の手を握り返す。
にやけそうになるのを堪えながら、
明日は図書委員の仕事を少しだけ手伝ってやろうと思った。
けど、ほんの少しだけ。
あまり親しくないこいつと2人っきりでいられるのは、
放課後の図書室だけだから……。
end