ツギハギの恋
暗くなりはじめた帰り道。

あたしはひなたと少し距離をとって隣を歩く。

真正面を向いて歩くひなたは相変わらず表情がない。


「あの……夢前先輩、もう少し穏やかな感じで笑ったりとか……出来ません?」

「どんな顔をすればいいかわからないの」

「綾波かよ」

「ま、冗談はこの辺にしてさっきの話」


冗談だったのかよ……。


ひなたは足を止めると無表情のままあたしに顔を向けた。




「目が覚めたら何もかも忘れてたんだ。目の前にいたおばあさんに名前を付けられて学校に通うように言われてそうしてる」



空気が一瞬にして変わる。

ひなたの刺すような眼差しがあたしを捕らえて離さない。



「君は俺のことを知ってた。俺の覚えてない俺を知ってる」



感情のないその声が胸を締め付けた。

ひなたがいなくなって、あたしはずっとひなたを思ってたのに……。




「俺は誰?俺と君の関係は何?」




はっきり言われ、胸に押し潰されたような痛みが走る。


ひなたは本当に何も覚えていないんだ……。


ジワジワと涙が込み上げてあたしの鼻をツーンとさせた。


泣かない……。


あたしは絶対に泣かない。
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