ツギハギの恋
俯いて涙を必死で堪えた。

声を出したら泣いてしまいそうであたしは喉の奥でぐっとこらえた。





「……中田さん?」


近寄り覗き込もうとしたひなたを押して引き離すとあたしは唇をギュッと噛んだ。



「先輩、すみません。あたし夢前先輩のこと知りません……」



震えた声でそう答えると、あたしはひなたの顔を見ないままその場から走り去った。




逃げたんじゃない。


事実を教えるのは簡単だ。


でもだからって……

今のひなたに教えても、感情を伴わない事実にしかならない。


『アンタはあたしに恋した犬のぬいぐるみ』


記憶のないひなたに愛を押し付けるみたいであたしには言えなかった……。



走り疲れて足を止めるとあの日ひなたが消えた公園の前にいた。


何でこんな所で……


息を調え、公園に目をやるとあたしはゾッとして鳥肌が立った。


ひとけのない公園のベンチ……。

鮮やかなピンク色の髪を夜会巻きにした着物の老婆がこっちを見て座っていた。
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