私が海に還るまで
一口だけ水を飲んでそのまま座っている私を他所に
シュウは隣の部屋でガサガサと何か始めた
そのまま何をするでもなくぼぅっとしていると
ふいにツンとした甘いような苦いような匂いが私の鼻先をかすめた
その匂いの正体を確かめようと
キョロキョロ辺りを見回すと
(あ……菊の花)
引戸が半分ほど開いているシュウのいる部屋にチラッと花が見えた
この閑散とした家には不釣合いな小さな菊の花が、脚の低いテーブルの上に置かれた左右の花瓶にささっていて
その中央には綺麗なシュウに似た女の人の写真が立てられていた