【鬼短2.】鬼売り
…ある日。
父はお城へお勤めに出、
母は次女や小さな弟達を連れてお寺へ、
と
家の者ほとんどが出払ってしまったのですが、
お桐は気が向かずただ一人部屋に篭っておりました。
最初の内は手習いをしたり読書をしたりで過ごしていたのですが、何をしていても退屈になり、
部屋を出て、屋敷の中を散策し始めました。
お桐はあちこちふらふらした揚げ句、
普段足を運ばない、台所へ行き着いてしまいました。
行って悪いという所ではないのですが、なにしろお桐は箱入り娘でしたから、あれが欲しいこれが食べたいとねだれば、なんでも誰かが部屋まで運んでくれました。
そういうわけで、久しぶりに我が家の台所へ足を踏み入れたのですが、そのときたまたま、そこには下女の一人もいませんで、
お桐は板間の縁にぼんやり座って
かまどだの干した大根だのを、もの珍しげに眺めておりました。
しばらくたった頃。
「もうし。旅の商いの者でございますが。」
裏口から、見知らぬ若い男が、顔をのぞかせたのでございます。