【鬼短2.】鬼売り
お桐は、わけがわからず首をひねりました。


「…おに、とは…?」


商人は、更ににこりと笑います。



「鬼でございます。角のある鬼。」




そう言いながら、商人はつづらのふたを少しだけ、持ち上げました。

…井戸の底のような、夜の空のような、言い知れぬ闇がちらりと見え…。


商人はその中にずぶりと、手を入れました。そして…鶏の卵ほどの大きさをした、何かを取り出しました。


困惑しきって何も言えぬお桐を手招き、掌に隠したソレを、お桐の顔の近くに寄せました。




「鬼と申しましても、人を喰ろうたり襲ったりする類の鬼ではございません。

これ、このように、可愛らしい物でして…」



そう言いながら、ぱっと手を開きますと。



―そこには、墨で染めたように真っ黒い、卵型の物が乗っていたのでした。




「……これが鬼でございますのか?」


「はい。ほれ、ここに目がふたつ、角がふたつ。」



卵の上の方、商人の指す辺りをよく見ると、確かに小さなとんがりがふたつと、針で突いたような青い小さな点がふたつ。




お桐は、驚いて商人を見ました。


「鬼というものを初めて見ました。…して、これが私に、どのように要り用なのです?」


商人は黙って、お桐の掌にその鬼を持たせてから、静かに言いました。



「人の世の機微を知る事ができまする。」



そして、さぁ、とお桐を促しました。



「その、小さな目の中をのぞいて御覧なさいませ…。」



< 7 / 21 >

この作品をシェア

pagetop