【鬼短2.】鬼売り
言われるまま、好奇心の促すまま、お桐は恐る恐る鬼に顔を近づけてみました。


鬼は、井戸水のようにひんやりと冷たく、しっとりとしております。



針先ほどしかない、その青い目に、己の目を近づけていきました…



すると、どうしたことでしょうか。




次の瞬間、お桐の目の前に、広い広い、どこかのお屋敷の庭が広がっていたのです。





「…えっ?」


驚いて鬼を目から離そうとすると、商人がお桐の手を止めました。


「そのまま、御覧なさいませ。」



商人の力が思いのほか強く、お桐は仕方なく、鬼の目の中に広がる風景を、眺め続ける事にしました。





…その庭に、お桐は見覚えがありました。
それは、お城の北にあるお寺の風景でした。


今日、母が弟達を連れて説法を聞きに行っているはずの寺です。





しばらくは、ただ木の葉が静かに散っているだけの風景でしたが…

やがて

庭に、二つの人影が現れました。

…すると。


『お嬢様の御輿入れまであと半月…さぞお嬉しいことでしょう』


まるですぐそばにいるかのようにはっきりと…一方の人影が、そう言ったのが聞こえました。



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