スカーレット
母は困惑して、あろうことか何も知らない私に答えを求める。
「紀子、あなたはどうしたい?」
「え? あたし……?」
勝彦の真剣な表情を見ると、自然に首を縦に振っていた。
これでよかったのかはわからない。
母が記憶のない私に委ねたのは、その時点で勝彦の熱意に負けたからだと思う。
昼間はできるだけ実家に通うことを条件に、私は勝彦と暮らすことになった。
正直、記憶のない私にとっては、十和田家で暮らそうが勝彦の部屋で暮らそうが、どっちでも良かった。
誰のことも知らないんだから。
勝彦からは、確かに愛情のようなものを感じる。
彼の気持ちにいくらかは答えないといけないような気がした。