スカーレット
しばらく黙っていたはずの女医が、ここででやっと語る。
「あなたが妊娠に気付いてここにいらっしゃった日、あなたは迷わず中絶したいとおっしゃりました。せっかく恵まれた命なんだからよく考えてほしいと伝えましたが、あなたは頑なに中絶を希望されていたんです」
それはそうだろう。
だって、子供の父親は……実の弟なのだから。
「私はパートナーの方にも来ていただくようお願いして、同じくここでお話をさせていただきました。その男性も、頑なに中絶を希望されました」
同意書の記入事項を見ると、苗字も同じ、住所も同じ。
当然だ。
だって私たちは同じ家に住む家族。
しかし他人から見れば、夫婦にも見える。
この二人の反応は、明らかに正樹が夫ではなく近親者であると気付いている様子だった。
「どうして気付いたんですか? これを見るだけでは、夫婦だと捉えるのが普通じゃないですか?」
院長が切ない顔をする。
しかし彼は黙ったまま、女医の方が口を開いた。