スカーレット
「聞いてしまったんです。正樹さんがあなたを“姉ちゃん”と呼ぶのを」
私はまた、笑いを漏らした。
ああ、バカだなって。
頑なに中絶を希望したのは、近親者間の子供だったからだ。
大きな過ちのせいで心の病が悪化したと考えれば、今までの推理よりよっぽど自然な流れになる……。
折りたたんだ同意書のコピーを広げ、正樹に突き出す。
彼はそれを見て、諦めたようにため息を漏らした。
そのため息が本当の答えだ。
彼が子供の父親である可能性は、これでほぼ100%。
正樹は私が抜き取ったタバコを再び口に咥え、慣れた手つきで火をつけた。
悔いているような、悲しんでいるような、そんな表情で。
私は黙って一本吸い終わるのを待った。