スカーレット

「だから、探るなって言ったのに」

 火を消しながら正樹が呟く。

 私は微笑を絶やさないように努めた。

「知りたかったの。本当のことを」

「知るからこういうことになるんだよ」

「ほんと、調べるほどろくでもなかった。けど、あたしには記憶が何もないの。ショックだったけど、今の私には他人事よ」

 正樹はバカにするように鼻で笑って、ベッドに寝転んだ。

 手を後頭部に組んで、天井を仰ぐ。

「ずりーよ、姉ちゃんは。自分ばっか忘れやがって」

 この部屋に私のタバコの箱があるということは、きっと彼との行為はここで行われた。

 無愛想だと思っていた正樹。

 今ではその理由も納得できる。

 私が目覚める以前の彼がどのような人物であったか、もう私にはわからないけれど。

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