スカーレット

「ねえ、どれくらい?」

「は?」

 正樹の顔だけがこちらに向いた。

 穏やかな顔をしている。

 こんな表情を見たのは、私が目覚めて以来初めてかもしれない。

「どれくらい“そういうこと”してたの?」

 天井を仰いだまま、彼はひとつため息をつく。

「もう、十年になるな」

 そんなに……?

 予想を遥かに上回る答えに、コメントさえできない。

「正確には、親父が死んで、母ちゃんが店を始めてから」

 それらしいきっかけだ。

 夜、母は家にいないし、この家全てが二人だけの密室になる。

「俺の初めてをもらったのは姉ちゃん。姉ちゃんの初めてをもらったのも、俺」

 堂々と口にしているが、私たちがやってきたことは紛れもない背徳行為。

 思春期で性の好奇心に負けた?

 それとも……。


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