スカーレット
2・憶
私の実家はごく一般的な一軒家だった。
おそらく、亡くなった父が建てたものだろう。
母と一緒に着替えなどをバッグに詰め、勝彦の車でこれから住む家へと帰った。
季節は夏。今日は8月29日らしい。
助手席に座る私の腕を、窓越しに太陽がジリジリと刺激する。
「実家を見て、何か思い出さなかった?」
「ううん、何も」
運転中も終始笑顔の勝彦を見ていると、何だか安心する。
やっぱり彼氏というだけあって、脳ミソが覚えてなくても体が覚えているのだろうか。
「ねえ、あたし、あなたのこと何て呼んでたの?」
「え? はは、自分で言うのは恥ずかしいな」
一瞬だけ私のほうを向き、すぐに前へと視線を戻す。
「早田さんって呼ぶよ」
「それは嫌だな。かっちゃんって呼ばれてた」
ふーん。かっちゃん。
そういえば、母もそう呼んでたっけ。
「かっちゃん、いくつ?」
「27歳。紀子の一つ上だ」
年相応、かな。