スカーレット

 隣に座った勝彦のカップの中身は黒いままだった。

「ブラック派?」

「いや、砂糖は入ってる」

 それが彼の飲み方か。

 覚えておいて損はないはず。

「ねえ、紀子」

「なに?」

 カップを置いて視線を向けると、勝彦の顔が目の前にあった。

 ドキッとする。

「キス、していい?」

 え、いきなり?

 旧・紀子にとっては恋人でも、今の私にとっては……一体何だろう?

 返事ができないでいると、彼はクスッと笑って離れていった。

「まいったな。自分の彼女にチューするのにも許可をもらわなきゃいけないなんて」

「ご、ごめん……」

 なんだか申し訳ない。

 彼は笑ってるけど、心の中ではきっと悲しいとか寂しいとか思っているはずだ。

「いいよ」

「え?」

「キスして、いいよ。彼女なんだもん」

< 13 / 110 >

この作品をシェア

pagetop