スカーレット
隣に座った勝彦のカップの中身は黒いままだった。
「ブラック派?」
「いや、砂糖は入ってる」
それが彼の飲み方か。
覚えておいて損はないはず。
「ねえ、紀子」
「なに?」
カップを置いて視線を向けると、勝彦の顔が目の前にあった。
ドキッとする。
「キス、していい?」
え、いきなり?
旧・紀子にとっては恋人でも、今の私にとっては……一体何だろう?
返事ができないでいると、彼はクスッと笑って離れていった。
「まいったな。自分の彼女にチューするのにも許可をもらわなきゃいけないなんて」
「ご、ごめん……」
なんだか申し訳ない。
彼は笑ってるけど、心の中ではきっと悲しいとか寂しいとか思っているはずだ。
「いいよ」
「え?」
「キスして、いいよ。彼女なんだもん」