スカーレット
驚いた顔をする勝彦。
いいって自分で言ったくせに、めちゃくちゃ緊張している。
恥ずかしい……。
「顔、赤いけど」
「言わないでよ。しないなら、いい」
こう言ってそっぽを向くと彼の手が私の頬に伸びてきて、強制的に顔を向けられる。
「相変わらず、可愛いね」
そして、軽く唇が触れた。
ドキドキする。
でも、嬉しいと思った。
新・紀子も、彼に恋をした瞬間だった。
「ねえ、かっちゃん。あたしたちの写真、ない?」
勝彦は眉を下げて困った顔をする。
「ないんだ。俺たち、付き合ってまだ一ヶ月くらいだから」
「そっか、残念。何か思い出せると思ったのに」
「無理して思い出す必要ないよ」
まただ……。
その言葉が、私はどうも好きになれない。
みんな口を揃えたように「無理して思い出さなくていい」と言う。
私は思い出したくてしょうがない。
自分が何者か知りたくて仕方ないのに、母も弟も彼も、同じように思い出さなくていいと言う。