スカーレット

 後ろで肉の焼ける音を聞きながら、ガスが漏れるシチュエーションを想定してみた。

 ホースが外れた?

 器具から漏れた?

 元栓は締まってなかったの?



「できたよ。食べよう」

 テレビを見ているふりをしているが、頭の中はガスで充満している。

 想像するのに集中していると、背後からスッと抱きすくめられた。

「バラエティ見てるのに、眉間にしわが寄ってるよ」

 頬に彼の唇が触れ、料理ができた合図。

「あ、ちょっと考え事してた」

 笑顔を作ると、安心したように微笑む勝彦。

「どんな考え事? そんな顔してると心配になるよ」

 抱きしめる腕をギュッと強め、頬と頬を合わせる。

 優しい彼に心配をかけてはいけない。

 堕胎やうつ病のことを、彼は知っているのだろうか。

 もし知らないとしたら言ってはいけない気がする。

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