スカーレット
4・嘘
記憶がなくなってから一週間が経つ。
私はこの日、実家でくつろいでいる「ふり」をしていた。
「お母さん買い物に行ってくるけど、紀子も一緒に行く?」
「ううん、今日はここでゆっくりしてる」
「そう。じゃあ、行ってくるわね」
「行ってらっしゃい」
必要な時以外、外出するのは怖い。
外で誰かに話しかけられたとき、記憶のない私はそれが誰かわからないのだ。
友達だったんだよ、なんて言われたとき、私はどんな顔をすれば良いのか。
それが本当かどうかもわからない。
相手も悲しい顔をするだろう。
そこに生まれる感情は、決して良いものではないのだ。
母を見送った後、私はキッチンへと移動した。
コンロ横に貼ってあるシール。
ガス屋の連絡先が書いてある。
私は携帯に番号を打ち込み、通話ボタンを押した。