スカーレット
新しく覚えた自分のこと。
名前は十和田紀子。
年齢は26歳。
性別が女だということは忘れていなかったらしい。
これが本能というやつか。
病室に戻ると、若い男が一人増えていた。
色黒な彼もきっと私の関係者だ。
二人の紹介を受ける前に、おばさんは彼らに説明を始めた。
「記憶喪失ですって」
二人は「嘘だろ?」とか何とか言いながら彼女の話を聞いていた。
おばさんは短い髪の毛の色や化粧が派手で、年のわりにはスタイルが良い。
低い声が特徴的だ。
「改まるなんておかしいけど、私、あなたの母親よ。名前は十和田雅代」
色黒の男はやけにぶっきらぼうで、やや汚れた作業服を着ている。
「俺、弟の正樹」
そして、目覚めた時にもここにいた方の男。
半袖のワイシャツに、ネクタイを締めている。
「早田勝彦です。君の、恋人だったんだ」